男は世界一の配達人だった
別に配達人の世界選手権にでたことがあったわけじゃないけど
男は自分が世界一の配達人だって自負してた
男はなんだって送り届けた
小さな小包も大きな小包もラヴレターもデリヘルのビッチもお取り寄せの上海蟹も結婚式のクソみたいな引き出物も出稼ぎに出たまま死んだ屈強なニガーを故郷まで送り届けたこともあった
そんなある日に男は考えた
大きくっても小包って言うのか?
すぐにそんなことを考えたって無駄だってことに気づいて考えるのをやめた
だって男の仕事は考えることじゃなくて配達だったから
考えるのは学者かシェークスピアに任せておけばいいやなんて思った
そういえばなんて男はシェークスピアの言葉を思い出した
“愛は嵐を見つめながら揺るぎもせずいつまでもしっかりと立ち続ける燈台なのだ”
いい言葉だなと思ったけど特に今関係あるわけでもなかったから忘れることにした
大昔のロマンチストの言葉より次の配達の方がよっぽど大事だった
ある日の男は小さな女の子から大きなくまのぬいぐるみを預かった
大きなくまのぬいぐるみは小さな女の子と同じくらいの大きさなのに
どうして大きなくまのぬいぐるみだと思ったんだろうなんて考えた
もしかしたら小さな女の子はホントは小さくないんじゃないかとか
くまにしては小さすぎるくらい小さいのになんて考えたけどすぐにそれもやめた
男の仕事は考えることじゃなくて配達だってことを知ってたからだ
考えるのは学者かアルバート・アインシュタインにでも任せておけばいい
そういえば彼の言葉にこんなのがあったななんて思い出した
“聖なる好奇心をもちたまえ。人生を生きる価値のあるものにするために”
特に今は関係がなかったけど聖なるってとこが気に入ったしせっかく思い出したんだから今度どこかで使おうかなんて考えた
男は小さな女の子から預かった大きなくまのぬいぐるみをグリズリーみたくファットなおばあさんに送り届けた
小さな女の子から預かった大きなくまのぬいぐるみもグリズリーの前ではやっぱり小さなくまのぬいぐるみだった
ある日の男は完全に中東の関係のヒゲのプッシャーから小さなパケを預かった
ヒゲはとても急いでいるようで13時13分に彼女の家にそれを届けて欲しいと言った
ヒゲはもちろんぶりんぶりんにキマってて男のおでこの13度上くらいを眺めながら話したもちろんろれつなんて回ってるわけもないから2割ぐらいしか聞き取れなかった
時計を見るとすでに13時9分だった
それでも男は焦らなかった世界一の配達人だったから
男が目の前の道路にそっとそのパケをおくと一台のCHOPPERがホイルスピンしながら走ってきた
焼けてドロドロになったそのタイヤはパケを貼り付けて走っていった
ヒゲの彼女のアパートの前でパケはうまい具合にタイヤから剥がれて落ちた
13時12分帰宅した彼女のヒールの底には駅で踏んづけたガムがべったりと張り付いていてパケはやっぱり張り付いた
13時13分がくると男はヒゲにしっかり届けたよと一言言ってその場をあとにした
世界一の配達人はそんな事実は知らないけれど間違いなく時間どおり配達を終えた
ある日男は友達の女の子から相談を受けた
彼にメールを出しても返事がこないの
そう言ってその女の子は酷く泣きじゃくった
男はじゃぁ僕が届けてあげるよと言うと女の子のメールを暗記した
暗記したことを忘れないように他のことは何も考えないでアホみたいな顔して彼の家に行くと
中から出てきた彼は裸で奥のベッドに寝ていたのは見るからに連続娼婦殺人事件とかがあったときに3番目ぐらいに殺されてそうな中途半端なビッチだった
男は暗記したメールの文章を伝えると玄関に立てかけてあったバットで男の頭がザクロみたいになるまで小突いてやったブタみたいに寝てたビッチがぎゃぁぎゃぁ悲鳴を上げやがったので一緒にザクロにしてゴミ袋に入れて世界一のごみ収集業者に引き渡した
世界一の配達人の男には配達したって証拠が必要だったから彼の家のドアに暗記してた彼女のメールをそのまま缶スプレーで書いておくことにした
“あんたみたいなクズ野郎とは今すぐ別れてやるわ!”
なんとなく暗記してたのとは違ったような気がしたけど世界一の配達人の男は満足そうだった
ある日の依頼は冷凍マグロだった
男は冷凍マグロって初めてみたけどミサイルみたいだななんて思ったけど
すぐにやっぱりミサイルなんてみたことがないってことに気づいた
冷凍マグロはやっぱりインド洋あたりから送られてきていて届け先はマグロなんて見たこともないって顔した連中のいるカンボジアって国だった
冷凍マグロはクソみたいななんとかってコンピューター会社をやってる資産家からの支援物資だった
カンボジアのその辺にいた女の子に冷凍マグロを渡すとその女の子は
“ミサイルみたいだね!”
と言って笑った
女の子には左足がなかったけど男が今まで見たことのある中で最高のその笑顔はそんなことも忘れさせた
女の子はお礼にと言って米が3粒だけ入ったおかゆをご馳走してくれた
男は別に腹も減っていなかったけど一息に流しこむとありがとうと言って女の子にハグをした
おかゆっていうよりは濁ったただのお湯だった
男はある日手紙を書いた
もちろん男は世界一の配達人だったからその手紙も自分で届けた
受け取った女の子は手紙を読んでたくさん泣いてそして少し笑った
男は泣いていいものなのか笑えばいいものなのかもわからなかったから
変な顔をして笑いながら泣いた竹中直人は笑いながら怒ってたなと思い出した
あの子にまた手紙を書こうそう思った
でも自分で書いて自分で配達するなら直接会ったらいいんじゃないか?なんて考えたけど
男にとっては配達することに意味があったからそんなことはホントは考えもしなかったのかもしれない
少し冷えるようになった夜男は月を眺めながら小さくため息をついた
そういえばと前に友人の言っていた言葉を思い出した
“ため息で逃げるくらいの小さな幸せはどんどん逃がせばいい大きな幸せはため息なんかでにげやしねぇさ”
男はいつもよりほんの少しだけ多めにため息をついた