スポンサーサイト

  • -
  • スポンサードリンク
  • -
  • -

この広告は60日以上更新がないブログに表示されております。
新しい記事を書くことで広告を消すことができます。




森のくまはハチミツが大好きでした
でもハチミツを食べるためには蜂たちの巣を壊さなくてはなりません

ある日蜂はくまに言いました
どうしていつも僕たちの巣を壊すんだい?中には僕たちの子供もいるのに
くまは言いました
だってハチミツをとるためじゃないかしょうがないよキミ達だって花から蜜を採るだろう?
蜂は言いました
僕たちは花から花へ花粉を届ける仕事をしてるんだそのお礼に蜜をもらってるだけだけどキミはただハチミツが舐めたいだけじゃないかハチミツなんて舐めなくっても死にはしないくせに

またある日くまが歩いているとへびがカエルを狙っているところに出くわしました
カエルはへびに言いました
どうして僕をたべるんだい?
へびは言いました
だって食べなくちゃ死んでしまうよキミ達だって虫を食べるだろう?
それじゃしょうがないねと言ってカエルは黙ってへびに食べられました

くまがしばらく眺めていると今度は大きな鳥にへびが食べられてしまいました
くまは鳥に言いました
どうしてへびを食べるんだい?
とりは言いました
だって食べなきゃ死んでしまうだろう?
そう言うと鳥は小さくガフッとゲップをすると飛び立っていきました。

またある日くまが歩いていると猟師にであいました
猟師の肩からははこのあいだへびを食べて飛んでいった鳥がだらりとぶら下がっていました
猟師はものものしくショットガンを構えるとくまに狙いをつけました
くまは猟師に言いました
どうして鳥をころしたんだい?
そりゃあもちろん食うためさ鳥の肉はうまいからな
僕もころされるのかい?
まぁそうだろうな
どうして僕をころすんだい?
猟師はいいました
猟師はくまをころすものなんだ
それじゃあ僕も食べるのかい?
くまなんて臭くて食えたもんじゃないさでも殺さなきゃキミ達は人間をおそうだろう?
僕はひとをおそったことなんて無いよ?ハチミツが大好物なんだ
これからもそうじゃないとは限らないさ
そう言うと猟師はショットガンでくまの眉間をぶち抜きました

猟師がくまの近くまで歩いていくと頭につめたいものがあたる感触がしました
振り向くとそこにはボロボロのエンジニアブーツを履いたみたこともないほどの綺麗なおんなが猟師の頭にショットガンを突きつけているところでした
猟師はたずねました
俺をころすのかい?
おんなは言いました
そう思うならそうなんじゃない?私はあなたを食べたりしないけど
それじゃなんで俺をころすんだ?
それじゃあなたはどうしてくまをころしたの?
あいつらは人を襲うじゃないか
あら?でもあのくまは人なんて襲ったことないじゃない
それでもそのうち襲うかもしれないじゃないか
あなたが人殺しじゃないって保証もないわよ?
俺は人をころしたことなんてないさ
これからもないとは言いきれないじゃない少なくとも人間になんて興味もないハチミツ好きのくまは殺したわ
それで殺すのか?

じゅうぶんでしょ?
そう言うとおんなは引き金にかるく力を入れ猟師のあたまに鉛弾をぶちこみました

天使ってのは人をころすものなのよ




ある街で声をかけられた

声をかけてきたのは小さな木製の丸椅子に腰をかけてボングを燻らす若々しくも老人にも見える男だった

『ようアミーゴお前さんは俺たちがなんでアミーゴアミーゴ言うのか知ってるかい?』

旅人は「いや、わからないよ」とだけ答えた

『例えばよアミーゴお前さんがメシも食えずに飢えちまってどうしようもねぇとするだろぅ?そんな時アミーゴが近くにいりゃぁ心の底から助けてくれるだろうが違うかい?アミーゴ』

旅人は「どうだろう?」とだけ答えた

『それによアミーゴお前さんが車にでも撥ねられて事故にあった時だって一緒さ近くにアミーゴがいてくれりゃぁすぐに病院へ運んでくれるさなぁ?アミーゴ』

「それじゃぁキミはアミーゴなんて呼んだ事もないヤツだったら助けずに放っておくのかい?」
旅人は聞きました

『そう思うかい?アミーゴ』
「思わないですね、きっとあなたはその場でこう言いますから(よう!アミーゴ!事故かい?俺に出来ることがあったらいくらでも言ってくれ)みたいな感じで」

『わかってるじゃないかアミーゴ』

「でもそうだとしたらなぜ言葉に出してアミーゴと言わなければならないんですか?言わなくてもみんなアミーゴみたいなものなのに」

男はボングを咥え大きく一吸いするときもちむせ込みながら言いました
『何も助けてもらうばっかりじゃねぇさそのうちきっと自分が困る時がやってくるんだ、そんな時の為に俺は俺のまわりにいるヤツみんなとアミーゴになりてぇんだよアミーゴ』

「僕が人殺しでもですか?」
『そうとわかりゃぁ知り合いの腕利きの弁護士でも紹介してやるよアミーゴ』
「あなたの子供を殺したとしてもですか?」
『罪は償うべきだわかるかい?アミーゴ、でもお前さんは誰も殺しちゃいねぇだろ?』

「わかりませんよ?言わないだけかもしれないじゃないですか」
『誰だって言いたくねぇコトの一つや二つあるだろうアミーゴ、それに俺には息子はおろかかみさんだっていやしねぇんだ』
「そうなんですか?」
『だからアミーゴアミーゴ言ってんだろ?アミーゴ』

男はそれからまたボングを一吸いして同じようにむせ込んだ
旅人が言った
「僕も一服いいですか?」

男はにやりと笑って言った
『一服いいかいアミーゴ?だろ?』

旅人もニコリと笑い言った
「それじゃ一服いいかい?アミーゴ」



男は旅人にボングを手渡すと嬉しそうにこう言ったんだ
「$10だよアミーゴ」





http://www.flickr.com/photos/23626778@N04





サンタクロースが死んだ夜
妖精はボロボロになるまで使い込んだサンタクロースの袋いっぱいに
流行のニンテンドーだのソニーだのなんちゃらマンだのの人形を詰め込んだんだ
特別子供が好きなわけじゃなかったんだけど
なんだかそうしたかったんだ

サンタクロースが死んだ年のクリスマスの日
妖精はトナカイをショットガンで撃ち殺したんだ
真っ赤なハナをしたそいつは幸せそうな顔をしたんだ
特別トナカイが嫌いなわけじゃなかったし
むしろ気に入ってたぐらいなんだけど
なんだか一人ってのはひどく可哀想だったからさ

サンタクロースが死んだ年のクリスマスの日
妖精は世界中の子供のうちを回ってみることにしたんだ
一晩で世界中の子供のうちを回るなんてシャブでもジャブジャブ食ってなきゃ無理だってわかってたんだけど
なんだかそうしなくちゃって思ったんだ

その年のクリスマス13番目に回った子供のうちには
病気で寝たきりの母親が一人とその母親に飲ませる薬を買うためにせっせと働く男の子が暮らしてたんだ
妖精は特別その母親が憎かったわけじゃないけど
釘バットでその母親をザクロみたいにしてやって殺してやったんだ
男の子はひとしきり泣きじゃくったあとに妖精に聞いたんだ
「どうしてこんな酷いことをするんだい?」
妖精は言ったんだ
「僕がサンタクロースだからさ」

サンタクロースが死んだ夜
妖精はサンタクロースになってみようって思ったんだ
特別サンタクロースと親しいわけじゃなかったんだけど
なんだか涙を流したから

サンタクロースが死んだ年のクリスマスの日
13軒を回った妖精はその赤い服と帽子を脱ぎ捨てたんだ
特別その仕事が嫌になったわけじゃないけど
自分には向かないって思ったんだ

家に戻ると妖精はベッドの枕元に大きな靴下をぶら下げると大きなあくびをして目を閉じたんだ

それはサンタクロースが死んだ夜




男は世界一の配達人だった
別に配達人の世界選手権にでたことがあったわけじゃないけど
男は自分が世界一の配達人だって自負してた
男はなんだって送り届けた
小さな小包も大きな小包もラヴレターもデリヘルのビッチもお取り寄せの上海蟹も結婚式のクソみたいな引き出物も出稼ぎに出たまま死んだ屈強なニガーを故郷まで送り届けたこともあった
そんなある日に男は考えた
大きくっても小包って言うのか?
すぐにそんなことを考えたって無駄だってことに気づいて考えるのをやめた
だって男の仕事は考えることじゃなくて配達だったから
考えるのは学者かシェークスピアに任せておけばいいやなんて思った
そういえばなんて男はシェークスピアの言葉を思い出した
“愛は嵐を見つめながら揺るぎもせずいつまでもしっかりと立ち続ける燈台なのだ”
いい言葉だなと思ったけど特に今関係あるわけでもなかったから忘れることにした
大昔のロマンチストの言葉より次の配達の方がよっぽど大事だった

ある日の男は小さな女の子から大きなくまのぬいぐるみを預かった
大きなくまのぬいぐるみは小さな女の子と同じくらいの大きさなのに
どうして大きなくまのぬいぐるみだと思ったんだろうなんて考えた
もしかしたら小さな女の子はホントは小さくないんじゃないかとか
くまにしては小さすぎるくらい小さいのになんて考えたけどすぐにそれもやめた
男の仕事は考えることじゃなくて配達だってことを知ってたからだ
考えるのは学者かアルバート・アインシュタインにでも任せておけばいい
そういえば彼の言葉にこんなのがあったななんて思い出した
“聖なる好奇心をもちたまえ。人生を生きる価値のあるものにするために”
特に今は関係がなかったけど聖なるってとこが気に入ったしせっかく思い出したんだから今度どこかで使おうかなんて考えた
男は小さな女の子から預かった大きなくまのぬいぐるみをグリズリーみたくファットなおばあさんに送り届けた
小さな女の子から預かった大きなくまのぬいぐるみもグリズリーの前ではやっぱり小さなくまのぬいぐるみだった

ある日の男は完全に中東の関係のヒゲのプッシャーから小さなパケを預かった
ヒゲはとても急いでいるようで13時13分に彼女の家にそれを届けて欲しいと言った
ヒゲはもちろんぶりんぶりんにキマってて男のおでこの13度上くらいを眺めながら話したもちろんろれつなんて回ってるわけもないから2割ぐらいしか聞き取れなかった
時計を見るとすでに13時9分だった
それでも男は焦らなかった世界一の配達人だったから
男が目の前の道路にそっとそのパケをおくと一台のCHOPPERがホイルスピンしながら走ってきた
焼けてドロドロになったそのタイヤはパケを貼り付けて走っていった
ヒゲの彼女のアパートの前でパケはうまい具合にタイヤから剥がれて落ちた
13時12分帰宅した彼女のヒールの底には駅で踏んづけたガムがべったりと張り付いていてパケはやっぱり張り付いた
13時13分がくると男はヒゲにしっかり届けたよと一言言ってその場をあとにした
世界一の配達人はそんな事実は知らないけれど間違いなく時間どおり配達を終えた

ある日男は友達の女の子から相談を受けた
彼にメールを出しても返事がこないの
そう言ってその女の子は酷く泣きじゃくった
男はじゃぁ僕が届けてあげるよと言うと女の子のメールを暗記した
暗記したことを忘れないように他のことは何も考えないでアホみたいな顔して彼の家に行くと
中から出てきた彼は裸で奥のベッドに寝ていたのは見るからに連続娼婦殺人事件とかがあったときに3番目ぐらいに殺されてそうな中途半端なビッチだった
男は暗記したメールの文章を伝えると玄関に立てかけてあったバットで男の頭がザクロみたいになるまで小突いてやったブタみたいに寝てたビッチがぎゃぁぎゃぁ悲鳴を上げやがったので一緒にザクロにしてゴミ袋に入れて世界一のごみ収集業者に引き渡した
世界一の配達人の男には配達したって証拠が必要だったから彼の家のドアに暗記してた彼女のメールをそのまま缶スプレーで書いておくことにした
“あんたみたいなクズ野郎とは今すぐ別れてやるわ!”
なんとなく暗記してたのとは違ったような気がしたけど世界一の配達人の男は満足そうだった

ある日の依頼は冷凍マグロだった
男は冷凍マグロって初めてみたけどミサイルみたいだななんて思ったけど
すぐにやっぱりミサイルなんてみたことがないってことに気づいた
冷凍マグロはやっぱりインド洋あたりから送られてきていて届け先はマグロなんて見たこともないって顔した連中のいるカンボジアって国だった
冷凍マグロはクソみたいななんとかってコンピューター会社をやってる資産家からの支援物資だった
カンボジアのその辺にいた女の子に冷凍マグロを渡すとその女の子は
“ミサイルみたいだね!”
と言って笑った
女の子には左足がなかったけど男が今まで見たことのある中で最高のその笑顔はそんなことも忘れさせた
女の子はお礼にと言って米が3粒だけ入ったおかゆをご馳走してくれた
男は別に腹も減っていなかったけど一息に流しこむとありがとうと言って女の子にハグをした
おかゆっていうよりは濁ったただのお湯だった

男はある日手紙を書いた
もちろん男は世界一の配達人だったからその手紙も自分で届けた
受け取った女の子は手紙を読んでたくさん泣いてそして少し笑った
男は泣いていいものなのか笑えばいいものなのかもわからなかったから
変な顔をして笑いながら泣いた竹中直人は笑いながら怒ってたなと思い出した
あの子にまた手紙を書こうそう思った
でも自分で書いて自分で配達するなら直接会ったらいいんじゃないか?なんて考えたけど
男にとっては配達することに意味があったからそんなことはホントは考えもしなかったのかもしれない

少し冷えるようになった夜男は月を眺めながら小さくため息をついた
そういえばと前に友人の言っていた言葉を思い出した
“ため息で逃げるくらいの小さな幸せはどんどん逃がせばいい大きな幸せはため息なんかでにげやしねぇさ”
男はいつもよりほんの少しだけ多めにため息をついた




昔々ある男が太陽を追いかける旅をしていました。
半年前までそばにあった太陽はみるみるうちに遠のき風に流され雲の隙間に見えなくなりました。
男はただ歩きました。

男は雲に聞きました。
『太陽はどっちへ行きましたか?』
雲は言いました。
「太陽が進むのは西だって相場が決まってる」

男はまたただ歩き出しました。
それまで太陽が沈むのが西だと思っていたのでどうやったら西を知る事ができるのか男にはほとほとわかりませんでした。

男は風に聞きました。
『西へはどうやったら行けるんでしょう?』
風は言いました。
「カラスに聞くと良い、あいつらは西へ向かうから」

男はただただ歩きました。
いつの間にか男の歩く理由はカラスを探すものになっていました。
しばらくすると真っ白い髭を生やしてこ洒落たステッキを持った老人の像の横にあるゴミ捨て場でカラスたちを見つけました。
男はカラスに聞きました。
『ねぇカラスさん、西へはどうやって行けばいいんでしょう?』
カラスは言いました。
「食事中に話しかけるんじゃねぇよ」
男はカラス達の食事が終るのを待つ事にしました。
一時間経っても二時間経ってもカラス達の食事が終る気配はありませんでした。
男はカラスに聞きました。
「お食事中申し訳ありませんカラスさん、ところでそのお食事はいつ頃おわるんでしょうか?』
カラス達は不機嫌そうに答えました。
「オマエ馬鹿にしてんのか?俺たちが食わなくなるのは死ぬときだよ」
男は驚きました。
てっきりカラス達が西への行き方を教えてくれると思っていたからです。
男は申し訳無さそうにもう一度カラス達に訪ねました。
『たびたびお食事の邪魔をして申し訳ありませんが死んでしまうまで待ってるわけにはいかないしカラスさん達が死んでしまっては西への行き方がわからなくなってしまいますので…西への行き方を教えてはいただけませんか?』
カラスはやっぱり不機嫌そうに言いました。
「チキン食うか?」
『いえ…』
「ホントはファミマのが世界一うめぇんだけどな」
『ファミマ?それは西にあるんでしょうか?』
「西だろうが東だろうが南南西だろうがどこにだってあんだろ」
『すいません…知らなかったもので、それで西へはどうやって行けばいいんでしょうか?』
カラスは首を傾げいいました。
「そんなもんは太陽について行けばいいんじゃねぇか?」
男はヤレヤレといった具合にため息をつくと言った。
『その太陽が無くなっちゃったから聞いてるんですが…』
「太陽がなくなるわけねぇだろ?」
『無くなったんです』
「じゃぁわかんねぇわ」
『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
「太陽が無くなっちまったんじゃぁわかんねぇよだって俺たち太陽のあとついてってただけだし」
少年は困りました。
カラスに西への行き方を訪ねる以外に何も考えていなかったのです。
「ところでよ」
珍しくカラスの方から声をかけてきました。
「太陽がいなくなったってんなら俺たちはどこに飛んでいきゃぁ良いんだ?」
男は言いました。
『どうしてカラスさんたちは太陽のあとを追って飛んでいたんですか?』
カラスはそんな事も知らないのかといった具合に呆れた顔をすると言いました。
「そんなもん人間が起きるからに決まってんだろう?人間てのは朝起きると食い物を袋に詰めてそこらへんに投げていってくれるからな」
『なるほど、でもそれはゴミですよ?』
「ゴミってなんだよ?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
『なんでもないです…そんなことより他に西への行き方を知ってる方を知りませんか?』
カラスはそのまま回すと首が一回転してしまうんじゃないかというほどに首を傾け何かを考えているようでした。
「そんな事よりなんでそんなに西にいきてぇんだ?」
『太陽が無くなってしまったからですよ』
「太陽はなくならねぇだろ?」
男は何も返さずにカラス達の元を離れまた歩き出しました。

男は再び歩き出しました。
ただひたすらにどのくらい歩いたでしょう?そこには広い広い海が広がっていました。
『困ったな、行き止まりだ』
男は海に訪ねました。
『すいません海さん、ここは西の海でしょうか?』
海は大きな津波の口を開くと大地を振るわせるほどの大声でこういいました。
「海ってのは一つだよそんなにいくつもあってたまるもんかい!」
『それはそうだと思うんですが、どっちかっていうと西寄りだったりしませんか?』
大きな波が押し寄せ男の口の中に塩っ辛い水がたくさん入ってきました。
海はまた大きな波を立ち上げると言いました。
「あんたから見て西ってことかい?」
男は慌てて言いました。
『いえ、僕は今自分がどこにいるのかもわからないんで…』
「それじゃぁ何を基準に西だのなんだのって言やぁいいんだい?」
男は考えました。
西だの東だのって言うのは誰の目線が基準なんだろうか?やっぱり普通はみんな自分が基準なんだろうな。
『じゃぁここから西へ向かいたいんですがどっちに行ったらいいのか海さんにはわかりますか?』
「海ってのは繋がってるからね、アタシにはどっちが西か東かなんてわからないんだよ」
男は肩を落として言いました。
『そうですか…ありがとうございました』
男の背中を気の毒そうに眺めながら小さな波を立てて海が囁くように言いました。
「どうしてそんなに西へ行きたいんだい?」
男は慣れた質問に慣れた返事をしました。
『太陽がいなくなってしまったんです』
海は再び大きな波を立てると大笑いしながら言いました。
「太陽が無くなっただって?太陽がそう簡単になくなるもんかい」
男は少し機嫌を悪くしました。
そんなことは男にだってわかっている事でした。
『でも現にいなくなってしまったんですよ』
男が語尾を強めて言いました。
「そんな馬鹿な話は聞いたことがないねアタシは」
『実際僕も聞いたことがないんです…』
「どうして太陽が無くなったなんて思ってるんだい?」
男は少し考えるとこう言いました。
『いつの頃からか太陽が僕からどんどん離れていっていつの間にか昇ってこなくなってしまったんです』
「そうかい」
海は少し悲しそうな顔をして悲しそうな波をたてて言いました。
「でもね」
『なんですか?』
「さっきからずっと太陽は私を干上がらせてるしあんたの頭の上を照らしてるよ」
少年は首をグルグルと回して空を探しました。
それでもどこにも太陽は見当たりませんでした。
『僕は遊びに来たわけじゃないんです、太陽も出ていないのに海へ来るわけがないでしょう?』
海は少し落ち込み肩を落とし不機嫌そうに言った。
と、言っても海の肩なんてどこにあるのかなんてわかるはずもありませんでしたが。
「夜の海ってのもいいものなんだけどねぇ…」
「そんなことよりねアンタ、アンタがここえ来るずっと前から太陽はアンタの上を照らしてるよ、どうして太陽がいなくなったなんて思ってるんだい?」
男はしばらく考え込むと少し悲しそうな顔をしてこう言いました。
『僕の太陽はあんなクソみたいにやたらめったら照らしつけるような下世話なのとは違うんです、もっと優しくて暖くて気持ちがいいんです』
海は大きな波で頷くと「そういうことかい」と一言言いました。
「でもアンタそれなら、西に向かってるとは限らないんじゃないのかい?」
男は不思議そうな顔しながら言いました。
『だって太陽は西へ向かうものですよ?』

男はまた歩きはじめました。


ハイウェイをトップスピードで走るCHOPPERはただただ腐ったオイルとクソうるさい排気音を撒き散らした。
スピードメーターなんて下衆なもんはもちろんついていなかったので何キロで走ってるかなんてもちろんわからなかったけどとにかくそのCHOPPERのトップスピードである事に変わりはなかった。
それが30マイルだろうが180キロだろうがそんな事はどうでも良かったんだ。
男にとってはその真っ直ぐな道を真っ直ぐにトップスピードで走り抜けることが全てだったんだ。

もちろん男のCHOPPERにはクソみたいな容量のガソリンタンクしか載ってなかったもんだからすぐにガス欠になった。
男は軽く舌打ちをするとヒョイと飛び降りCHOPPERを押してハイウェイを歩く事にした。
どのぐらい歩いたのかなんて忘れたけどとにかくしばらく歩くと一件のガスステーションが見えてきた。
看板は錆落ち、入り口にはチェーンが張られ、ペプシの自販機なんてバッキバキにディスプレイが割られてたけど奥の建物には人影が見えた。
男はチェーンをふわりと飛び越えると大股でガスガスと進み勢い良くドアを開けた。
中にいたのは女だった。
10代とも30代ともとれる女の容姿はこの上ないほどやっぱり天使そのものだった。
女は言った。
『なに?』
男はそんな質問が返って来るなんて思ってもいなかったもんだから慌てて言葉がでなくなった。
『何なの?用がないなら帰ってくれる?』
「ここはガスステーションだろ?何?ってガソリンを売ってくれよ」
男が言うと女は肩をすくめヤレヤレといった具合に首を振った。
『あんたそこの鎖が見えなかったの?ここはやってないの』
「やってない?休みなのかい?」
『言ったでしょやってないものはやってないのよ、ここは私の家なんだもの』
男は少し吹きだしながら女に聞いた。
「ここに住んでるってのか?ガスステーションに?」
『そうよ、今は私の家だけど』
「ガソリンは置いてないのかい?」
女はやっぱり肩をすくめるとクスリと笑いこう言った。
『普通の女の子の家にガソリンが置いてあると思う?』
男は女を真似て肩をすくめるとこう言った。
「普通の女の子はガスステーションには住まないよ」
『そうかな?』
「そうだろ?」
二人はクスリと笑うと同時に肩をすくませた。
それから少しお互いの事をはなしたんだ。
CHOPPERのこと女の生活の事好きな食べ物好きな映画好きな色どうしてガスステーションなんかに住んでるのかってこと。
もっとも最後の質問に関しては女は答えなかったけど。

「少し喉が渇かないか?」
男は汗をぬぐいながら言った。
『外にペプシの自販機があるわ』
「壊れてるんだろ?」
『何をもって壊れてるって判断するのかは個人の自由だけど彼は元気にやってくれてるわ』
「彼?」
『ダニーって言うのよオンボロダニー』
そういうと女はエンジニアブーツの踵に引っかかったボロボロのデニムの裾を引きちぎり外へ出た。
彼女は自販機の耳元へ唇を寄せ『愛してるわダニー冷たいペプシが飲みたいの』と囁いた。
もっともペプシの自販機に耳元があるかないかなんて知ったこっちゃないけどもしあったらその辺だってだけの話さ。
その後彼女がどうしたかわかるかい?
オンボロダニーのボディをボッコボッコにこれでもかってくらい蹴り上げたんだぜ?
男はびっくりして彼女に聞いたんだ。
「もしかしてその自販機がボロボロの理由ってキミのソレが原因かい?」
『そうね私がここを買ったときは普通の自販機だったわ』
女が無邪気にそういいながらダニーを蹴り上げ続けるとダニーの口から良く冷えたペプシが二本ペッと吐き出された(ように見えた)
ダニーが気の毒になった男はダニーにコインを二枚入れペプシ(が、あったと思われる)のボタンを押してみた。
ゴトンと音をたててダニーがペプシを吐き出した。
「何だ普通に買えるんじゃないか」
男が言うと女は少し頬を赤らめながらこういった。
『そうやって使うんだ…』
「えっ?なんて言ったんだい?」
男が訪ねても女はそれ以上その件に関しては話す気がなくなったみたいだった。
『でもペプシが三本になっちゃったわ困っちゃったじゃない!』
女は意味も無く怒鳴り散らした。
「じゃぁそこにあるビアジョッキに二人で一本半ずつ分けて飲めばいいじゃないか」
男が気の利かせたことを言うと女はまた頬を赤らめながら『そうね…』と言った。
二人はまたたいしたことのない話しを続けた。
「ドクターペッパーって飲んだ事あるかい?」
『なにそれ?』
「なんだろ…炭酸飲料のKINGだよ」
『私の家の自販機はペプシしかでないからね』
「他の飲み物は?」
『飲んだ事ないわ』
「ここへ来る前はどこにいたんだい?」
『覚えてないわあなたはどこから来たの?』
「ディーゼルエンジンと音楽とロマンスの街からさ」
『素敵そうなところね…遠いの?』
「近いか遠いかなんてのはアンタの考え方次第だよ」
「アンタは毎日ここで何をしてるんだい?」
『住んでるのよ』
「何をして過ごしてるのかってことを聞いてんだよ」
女は少し考えると困った顔をしてこう言った。
『何って大したことはしてないわ、朝起きて食事をして古い映画を見てまた食事をして寝るぐらい』
「楽しいのか?それ?」
女はプッと吹きだすと肩をすくませながらこう聞いた。
『ただ暮らしているってだけなのに楽しいもクソもあるの?』
「あるだろそりゃ」
『でもあなたと話してるのは楽しいわ』
「それが毎日だったらただ暮らしてるのももっと楽しいんじゃねぇか?」
『そうかもね…』
「一緒に行くかい?あぁでもガソリンがねぇんだったわ」
『あるんじゃない?ガソリンぐらい』
そういうと女は金属バットを持ってガスガスと外の給油機のところまで行き給油機の横っ面に思いっきりバットを叩きつけた何度も何度も繰り返しバットでぶったたき続けるとホースからガソリンがゴボゴボと吐き出されたんだ。
女はくすりと笑ってこう言った。
『ほらね?ここはガスステーションよ?ガソリンがないわけないじゃない』
男はCHOPPERにガソリンをぶち込みそれでもゴボゴボとガソリンが沸いて出るもんだからそのままガスステーション全体にぶちまけてやった。
「乗りなよ」
男がそういうと女は勢い良く跨りガソリン臭い男の背中にしがみついた。
「おいおいバットはいらねぇんじゃねぇの?」
『バットはいるでしょ?何かと使えるわ』
「普通の女の子は金属バットなんか持ってねぇだろ?」
『そうかな?』
「そうだよ」
男にそういわれた女は手にギュッと握り締めていた金属バットを勢い良く放り投げた。
アスファルトにコツンと当たってはじけた火花が引火してでっかい音でガスステーションが爆発したんだ。
女は名残惜しそうに言った。
『ダニーは大丈夫かしら?』
「あんだけ蹴り上げられて平気なら大丈夫だろ?あんな爆発よりアンタのエンジニアブーツの方がよっぽど怖いさ」


ハイウェイをトップスピードで走るCHOPPERはただただ腐ったオイルとクソうるさい排気音を撒き散らした。
スピードメーターなんて下衆なもんはもちろんついていなかったので何キロで走ってるかなんてもちろんわからなかったけどとにかくそのCHOPPERのトップスピードである事に変わりはなかった。
それが30マイルだろうが180キロだろうがそんな事はどうでも良かったんだ。
二人にとってはその真っ直ぐな道を真っ直ぐにトップスピードで走り抜けることが全てだったんだ。





Hotelflamingo#1

何もかもに打ちのめされた女は浴びるように酒を飲み
雨の中をひたすら歩き
転んでは起き上がり
また酒を飲み
咥えタバコで歩き続けた。

ただひたすらに歩き続けた女はある日ローラーコースターに乗った。
隣りに座った男は首から真鍮の懐中時計をさげ
両の手首にも腕時計をし
ひっきりなしに時間を気にする前歯の出た兎のような男だった。
兎のような男が声をかけてきた
『このクソローラーコースターはいつ出発するんだですか?』
兎のような男は女に目もくれずボソボソと質問したので女は自分に対しての質問だとは思わず気にしない事にした。
それでも兎男は続けた
『聞いてるのかよ?出発はまだですか?』
相変わらず兎男は明後日の方向を向いて話していたが女はコレは私に話しかけているのだなと気づきこう答えた。
「すぐに出るわよ、何か予定があるの?」
『すぐにって何時だ?俺はこれからパーティに出なきゃならねぇんですよ』
女はケラケラと笑い言った。
「どうしてパーティの前にローラーコースターなんかに乗ろうと思ったのよ?」
『どうしてってどうしてだよ?ローラーコースターに乗らなきゃパーティにいけねぇじゃないですか』
「ローラーコースターとパーティって関係あんの?」
兎男は相変わらず時間を気にしながらキョロキョロと忙しなく目を動かした。
『クソローラーコースターに乗らずに行くクソパーティほど退屈で不毛な時間はないんですよ』
「へぇ、そうなの?っていうかアンタっておかしな話し方するのね」
女がそう言いかけると不意にローラーコースターが動き出した。
女が怖がって目を瞑っている間もはしゃいで手を上げて奇声を上げている間も兎男はぶつくさと『いつ着くんだ、早くしないと…』とかなんとか話し続けた。
コースターはサイケデリックなトンネルを抜け
空を駆け回り
海をぬけた
薄暗い奇妙な森をグルグルと回っている最中、女は不思議な色をした太った猫と目が合った。
暗闇を駆け抜けるとコースターが停車した。
隣りに座っていた兎のような顔をした男はすでにいなくなっていた。
コースターを降りると大きな建物の前にいた。
女はタバコに火をつけ
辺りを見回した。
路肩には大きな看板が立っていた。
淡いピンクで足の長い大きな鳥の絵が描いてありその隣りには

《FLAMINGO HOTEL》

と大きく描かれていた。
やってきた方角をみるとそこにはローラーコースターなど跡形もなく
吸い込まれるような真っ暗な森がただ深く深く続いていた。
日も暮れかけていたので女はとりあえずそのホテルに泊まることにした。
大きく重厚な扉の前にはドアマンもおらず中へ進むと荷物持ちもフロントマンもいなかった。

フロントのカウンターの呼び鈴を鳴らす。
何度鳴らしても誰も出てこない事に苛立った女はタバコに火をつけひっきりなしに口をつけた。
しばらくすると後ろから声をかけられた。
『いらっしゃい』
女は少し驚きの声をあげ振り向くと丸々と太った猫のように頬の上まで口元の釣りあがった男がニタニタと笑いながら立っていた。
女は苛立っていたのでタバコを床にポイと捨て履き古したエンジニアブーツでもみ消しながら口を開いた。
「泊まりたいんだけど」
『ええ、お部屋はご用意できますがね』
「できますが?なに?」
『ここフラミンゴホテルが売ってるのは夢と欲望だけだ、宿泊が目的なら他行ってくれるかね?まぁアンタには必要だと思うんだがね』
「何の話してんの?この辺りに他に建物なんかないじゃない、いいからさっさと部屋に案内しなさいよ」
『じゃあココにいるってことかねアンタは』
「いいから疲れてんの、早く部屋に案内しなさいよ!お金なら払うわ」
『イヤイヤお代の問題じゃないんですよ、じゃぁまぁ案内しましょうか?』
猫のような男は苛立った女を気にも留めずフワフワと音もたてずに歩き出した。
エレベーターに乗り案内された部屋には“13”と数字がふってあった。
「ここはワンフロアに部屋が一つだからね、13階のこの部屋は13号室ってわけだよ」
老人は相変わらずニタニタと笑っていた。
部屋の壁は恐ろしいほどの赤色で正面には大きなアンティーク風の鏡と巨大なヘラジカの頭が飾られていた。
傘たてにはショットガンと金属バットが無造作につきたてられていてフロアには一面豹柄のラグが敷き詰められていた。
「クソ品の無い部屋ね」
女が言い振り返るとそこには老人の姿は無く変わりに醜く太ったピンクと紫のボーダー柄の猫がこちらを向いてニヤニヤと笑っていた。
「アナタさっきローラーコースターに乗ってるときにコッチを見てた猫ね、さっきのホテルの人はどこ行ったのかしらない?」
猫は腹を地面にこすりながらめんどくさそうに歩くと意外と身軽にピョンと飛び跳ねベッドにどっかりと腰を卸すと毛づくろいを始めた。
「ちょっと、ちょっと!アタシは疲れてんの、そのベッドをあけてくれない?」
女は仕方なく扉を閉めて鍵を掛けベッドに近づくと驚いた事に大きな猫の姿がふわりと消えていった。











眠れない男の話でもしようか。


その場所には全ての夢と欲望を叶えてくれるという噂のホテルがあった。
噂はたってもその場所を知るものは誰一人としていなかった。

男は職人だった。
何の職人かってことなんてさして重要じゃなく
「肩書きは?」と聞かれれば「しがない職人です」と答える程度のものだったし、
とにかく生きていく上での様々な事に躓いて何度も転びそうになっている自称職人だった。

ある晩男は自慢の黒い単車で夜の街を駆け抜けた。
特に目的地があったわけでも用事があったわけでもなくただそこに男の単車が転がってたから跨ったってくらいのものだった。

街を出てからどのぐらい走ったのか
男の目の前にはネオンや街灯の一つも無い道が続いていた。
その道を通った事があるのかないのかそんなことですら男は考えるのを辞めていた。
いつの間にやらガソリンタンクは空になりエンジンは止まり風も強くなってきたので少し心細くなった男はとりあえず単車を押して歩く事にした。
ほどなく男の目の前には大きな下品なピンクのネオンで彩られた看板が現れた。
看板には淡いピンクの足の長い大きな鳥が描かれていてその隣には

《FLAMINGO HOTEL》

と大きく描かれていた。

行き場を失った男は吸い込まれるようにホテルに入るとフロントにある鐘をチリンと一叩きした。
「いらっしゃい」
男の背後から声をかけてきたのは男とも女とも思える老人だった。
「どうも」
男は消え入りそうな声を出し指を一本立てた。
「シングルに一泊したいんだけど」
老人は猫のような聞いたことも無いような声でけたたましく笑うとこう言った。
「一泊なんてとんでもないウチは夢と欲望を売るフラミンゴホテル、ここに来たなら決めることは一つ“帰るかいるか”どっちかだよお客さん」
「帰るかいるか?」
男は眉をしかめ老人を睨みつけると肩を持ち上げヤレヤレといった具合に手を振った。
「僕は単車がガス欠で街にも戻れないからとりあえず一晩泊まりたいだけなんだ、一泊が出来ないんなら良かったらガソリンを少し分けてもらえないかい?」
老人はやっぱり猫のように笑うと
「いいかいお客さん、ウチが売ってるのは夢と欲望だけだアンタが決められるのは“帰るかいるか”それだけだよ」
男は腹もすかせていたし朝が来たら勝手にチェックアウトしてしまえばいいし何より老人とのやりとり自体めんどくさくてしょうがなかったのでとりあえずこういったんだ。
「わかった、“いる”ことにするよ、それでいくらだい?今日は外泊するつもりなんて無かったからそんなに持ち合わせも無いんだ」
「お代?そんなもんはここには必要ないよ、さぁ部屋に案内しようか荷物は自分で運んどくれ、歳とるとどうもね」
「金が要らないってのはどういうことなんだい?ここはホテルだろ?少しならあるよ申し訳ないからちゃんと払いますよ」
老人は猫のように笑いそれ以上は口を開かなかった。
男を連れて歩くと黙って部屋へと案内したんだ。
エレベーターに乗り案内された部屋には“13”と数字がふってあった。
「ここはワンフロアに部屋が一つだからね、13階のこの部屋は13号室ってわけだよ」
老人は相変わらず笑っていた。
部屋の壁は恐ろしいほどの赤色で正面には大きなアンティーク風の鏡と巨大なヘラジカの頭が飾られていた。
傘たてにはショットガンと金属バットが無造作につきたてられていてフロアには一面豹柄のラグが敷き詰められていた。
「ちょっと落ち着かないんじゃないかなこの部屋」
男が言い振り返るとそこには老人の姿は無く変わりに醜く太ったピンクと紫のボーダー柄の猫がこちらを向いてニヤニヤと笑っていた。
「キミは誰だい?さっきの年寄りはどこ行ったのかな?ここの猫?」
猫は腹を地面にこすりながらめんどくさそうに歩くと意外と身軽にピョンと飛び跳ねベッドにどっかりと腰を卸すと毛づくろいを始めた。
「勘弁してくれ、ここは僕の部屋だぜ?それにものすごく疲れてるんだ寝かせてくれないかな?」
男が仕方なく扉を閉めて鍵を掛けベッドに近づくと驚いた事に大きな猫の姿がふわりと消えていった。













その晩老人のクソみたいにやれた樫の樹のベッドの足元には人間の身体に山羊の足を持った真っ赤な悪魔と白と黒のそれはそれは大きな犬が立っていた。
薄汚れた老人の住むアパートメントにはこれといって家族の写真が飾られているわけでもなく思い出の家具なんかがあるわけでもなかった。

老人は真っ赤な悪魔に訪ねた。
「俺を迎えに来たのか?」
悪魔は小首を傾げると大きな犬に意見を求めるかのような顔をして尖った角を掻いた。
老人はもう一度訪ねた。
「俺は死んだのかい?」
悪魔はめんどくさそうに床に座り込むと目を閉じ大きな欠伸をした。
思いもよらない方から声が聞こえてきた。
『クソじじいよ、そいつは俺のペットだよ』
驚いた事に口を開いたのは大きな犬の方だった。
『俺が悪魔だ、そいつは俺の従者だ』
老人があっけにとられ口をポカンと開けたままでいると犬は続けた。
『コレだから人間ってヤツは困るんだよなぁ、良いかいじいさん?犬だって猿だって豚だってみんな死ぬんだよ、犬の悪魔がいたって特に不思議はないだろう?』
「そうかもな」
老人がこぼすように言うと犬は満足気に頷き耳の後ろを後ろ足でバリバリと掻いた。
『なかなか飲み込みが早いなクソジジイ、それでだ、何をしに来たと思う?俺が』
「俺を迎えに来たんだろ?」
『ちょっと違うな、悪魔ってのはさ死神とは違うんだよ、契約だ契約悪魔といえば契約だろ?』
老人は犬の口から契約なんて言葉が出るとは夢にも思わなかったからプッと噴出した。
『何が可笑しい?』
「犬のクセに契約なんて難しい言葉知ってるなぁと思ってな」
『喰い殺すぞ?』
「子供の頃から犬は好きだよ」
老人はしゃんと座りなおし「スマンスマン」とか言いながらやっぱり可笑しそうにした。
「それで?何の契約だって?」
『何でもいいんだよあんたはどっちにしろ死ぬんだわ、俺と契約を交わさなければ今日死ぬ、俺と契約を交わせば死ぬ前に望みを一つ叶えてやる上に一週間死ぬのが延長される』
「ほぅ、なんでもか?」
『俺は悪魔だぜ?』
老人は犬のクセになんて思ったがそうは言わず少し考え込むと小首を傾げ聞いた。
「それで?オマエさんには何のメリットがあるんだい?」
『悪魔ってのは思い出を食うんだよ、あんたの思い出を食わせてもらう』
「どうせ死ぬんだろ?」
犬は振り返り赤い悪魔を鼻で小突くと言った。
『コイツと一緒だよ、思い出を食われたお前はクソ頭の悪い悪魔になるんだ、それで俺の従者になる、悪魔の一生ってのは人間のソレの100倍はあるからなその間俺の従者だ』
「ソレは嫌だな、死んでから犬のペットとして生きるのはつらいなぁ」
犬は機嫌を損ねたのか一瞬牙を剥くとまた耳の裏を掻きはじめた。
『どうすんだよ?』
「契約ってのは?」
老人が聞くと犬は赤い悪魔をたたき起こして顎で合図をした。
赤い悪魔がおもむろに一枚の丸めた羊皮紙を老人の膝元に置く。
『そこに書いてある契約内容をざっと読んで一番下に願いと名前を書いて血判を押してくれ、それだけだ簡単だろ?』
「住所も書くかね?」
『書きたきゃ書けよ』
「電話番号は?」
『電話あんのかよココ?』
「ないよ」
『・・・・じゃぁいいよ』

老人は羊皮紙を手に取るとゆっくりと時間をかけて隅々まで読んだ。
時折目をつぶって復唱したり天井を眺めて何か考え事をしてるようでもあった。

『決まったかよ?』
犬が聞いた。
「あぁ」
老人は立ち上がると伸びをして「決まったよ」と言い口角をこれでもかってくらい上げてニッカリと笑った。
『何を願う?』
「俺はさ、こんなちっちぇえ頃から今の歳になるまで変わらなかった夢があるんだよ」
『じゃぁそれにしたらいいさ』
「そう思って書こうとしたんだけどな…」
『びびったのかい?』
「いや、書こうと思ってペンを持ったんだがな、今の自分の状況をよく見たらな」
『なんだよ?』
「叶ってた」
犬は不思議そうに老人を見つめていて、その隣りで真っ赤な悪魔が床にゴロリと転がって眠りこけていた。
大きな満月の出た空はいつものソレより明るくカーテンの向こうからは目が痛くなるほどに白い光が差し込んでいた。

「もう少し付き合ってくれるかい?」




「俺はさ、子供の頃から犬と話がしてみたかったんだよ」



その日は腐った街には珍しく朝っぱらから客がひっきりなしに来た。
最初に来た少年はこんな風に言った。
「薔薇とスカルが彫りたいんです、リボンも巻いてレターも入れたいんですが」
レターなんて洒落た言い方しやがるななんて思ったんだ。
だから俺はこう言ってやったんだ。
『彫ればいいじゃねぇか』
「えっ?」
『彫りたいんですっつうからよ』
「そうなんすけど・・・」
『で?』
「え?」
とりあえずマシンの横に置いてあった金属バットでぶん殴ってやろうと思ったらもういなくなってたんだ。

二人目に来たのは女の子だった。
「ハートに矢が刺さったTATTOO入れてくれる?」
『いいよ、どこにだい?』
「場所はまだ決めてないの」
『じゃぁ何しにきたんだい?俺にTATTOOを入れるって宣言でもしに来たのかい?』
「そういうわけじゃ・・・」
『ハートは何色にする?』
「赤じゃ普通すぎるしなぁ・・・」
『決めてないのかい?』
「そうなの」
『好きな映画は?』
「タイタニック」
『なにそれ?』
「船が沈むラヴストーリーよ、知らないの?」
『しらねぇな、っつうかタイタニックくらいプランが決まったらもう一回きなよ』
「そうね」
「・・・・・・・」
『・・・・・・・』
『帰れば?』
「うん」

三人目もまた女だった。
「こんにちわ」
『いらっしゃい』
「バックがスパイダーネットで真ん中にお尻がスカルの蜘蛛、周りに星を入れたいんだけど」
『いいね』
珍しくしっかりプランが決まってる客が来たと思って俺は早速下絵を書き始めたんだ。
『こんな感じかい?』
「スカルの目の中にハートを入れられる?」
『いいよ』
『どうだい?』
「ネットはもっと細かい方が好みだわ」
『こんな感じ?』
「う〜ん」
「ネットの影もっと薄く出来る?」
『出来るよ、俺は濃い方が好きだけどな』
「星は水色にして」
『こんな感じかい?』
「その水色じゃなくってソーダキャンディみたいな色よ」
『コレくらい?』
「何か違うのよねぇ」
「やっぱりピンクにするわ」
『ピンクはどんなピンクだい?』
「ピンクにどんなもクソもある?」
『あとは?』
「やっぱり蜘蛛は辞めて黒ヒョウにしようかな」

その後どうなったかわかるかい?
もちろん俺は仕事机の下に潜ませてあったショットガンをガシャリとリロードするとその女の左耳を吹っ飛ばしてやったんだ。
女が気絶したもんだからサービスで肩に『Chopper』って彫ってやったよ。

それから9人くらい来たかな?
まぁいつもの顔ぶれだったよ。
ワンポイントをテキトーに彫ってテキトーにジョイントでも回して帰ってった。

そろそろ店じまいって頃にそいつが来たんだ。
クソきたねぇキャップ被ってディッキーズのチノパンをコレでもかってくらい腰っぱきしたやくざな男だったな。
『いらっしゃい』
「ここはTATTOO STUDIOだろ?」
『八百屋にはみえないだろ?』
「TATTOOを彫りに来たんだよ俺は」
『そうだろうな』
「早く始めろよ」
『は?』
男はそういうと瞬く間に着てきた服を剥ぎ取りベッドにうつぶせに寝たんだ。
『背中かい?』
「腹は見えねぇだろ?」
『何を彫るんだい?』
男は一度小さく舌打ちをしてぶっといジョイントに火をつけた。
「そんなもんは自分で決めろよ、あんたプロだろ?」


その晩俺は世界で一番クールでトラッドな彫り物をその背中に彫ったんだ。



| 1/8PAGES | >>