
“彼”は暴君と呼ばれるにはまったくもってふさわしいほどに暴虐の限りを尽くした生活を送っていた。
その界隈でアンダーグラウンドカルチャーを気取ってるヤツ等で“彼”のことを知らないなんてヤツなんているはずもなく“彼”の名が出るだけで皆が震え上がるには充分だった。
影では“彼”に対して敵対心をもつ者や陰口をたたく者も少なくはなかったけどそういう輩は決まって13日後には姿を消した。
“彼”に追われて逃げたのだと言う者もいれば、埋められただの沈められただの拍車のかかった噂が常に飛び交った。
“彼”は常に13人の女と付き合っていた。
もちろんまともな女なんて誰一人としているはずもなく13人の内12人は“彼”の事を愛してすらいなかった。
正直なところ“彼”も彼女たちを愛してなんていなかったし、彼女らの名前すらろくに憶えちゃいなかったんだ。
たった一人を除いてはね。
“彼”はとにかく人が苦手だった、彼に媚てくる輩もたくさんいたけど“彼”は誰かれ構わずもちろん殴り飛ばしジャックナイフでわき腹を刺し、当然の如く金属バットを頭から振り下ろした。
僕は昔から“彼”と親しかった。
何で知り合ったのかも忘れたし、“彼”と一緒にいなきゃいけない理由なんて特になかったし、“彼”が何を考えているかなんてのも間違っても理解する事なんて出来なかったけど“彼”との時間はとても居心地が良かったし“彼”の方もそう思ってたみたいだったんだ。
ある週の月曜日
彼はいつもみたいにクソみたいにケミカル極まりないDRUGをキメこんで街外れのDINNERを襲った。
僕が「なぜDINNERなんだい?他にも銀行にだってブランド品店にだってカジノにだっていくらでももっと金がありそうなもんじゃないか」
と聞くと“彼”は言ったんだ。
『昔見たなんちゃらって映画で言ってたんだ、これからは銀行なんか襲うのは馬鹿のすることだ、これからはDINNERだって』
「パルプ・フィクションかな?」
『あぁ、そんな感じの名前だった』
僕は“彼”のこんなトコが好きだった、とにかく“彼”は“彼”の理屈で生きていたから。
“彼”のルールは絶対だったんだ。
火曜日
13人の女の内の一人が言った。
「いい加減他の女と別れなさいよ!いつまでも私が我慢してアンタと一緒にいると思ったら大間違いなんだかんね!」
“彼”はたいして興味も無さそうにぶっといジョイントをしこたま吹かすとボソボソと言い放った。
『オマエ誰だっけ?』
“彼”はソファに立てかけてあった金属バットをめんどくさそうに振り上げると勢いよくもちろん女の頭に叩きつけた。
クチャッと鈍い音がして女の頭はザクロみたいにぱっくりと割れた。
『オマエいらねぇわ、もう』
水曜日
『水曜日は拷問の日だ』なんて突然言い出した“彼”は影で“彼”のことを
「アイツなんて実際俺にかかりゃぁ大したことねぇさ、いつかぶっ殺してやるさ」
なんて嘯いてた男を連れてきてこう聞いた。
『俺になんか言いがかりがあんなら聞くけど?』
相変わらずのボソボソとした話し方には独特の威圧感があった。
「俺には100人の仲間がいるんだ、俺が一声かけりゃぁアンタなんかすぐに潰せんだぜ?」
“彼”は不思議そうな顔をして男を眺め言った。
『100人も仲間がいて名前を覚えられるのか?俺は13人の女の名前すら満足に覚えてられないんだ、覚えてるのは13人の内一人の女と一人の友達の名位のもんだ』
そういうなり“彼”は男の右手の小指の爪を剥ぎ取った。
男は痛みに耐え切れず唸りながらもこう言い返した。
「名前なんて知ったこっちゃねぇだろうが!あいつらはただの駒なんだよ!馬鹿か?オマエ」
『仲間が100人できると世界は何かかわるのか?』
『仲間が100人できるとカンボジアから地雷がなくなるのか?』
『仲間が100人できると狼は兎を襲わなくなるのか?』
“彼”はそれ以上質問をするのにすら飽きたらしく手の指の爪っつう爪を剥ぎ取った。
それからタトゥーマシンをサプライに繋げると剥ぎ取った爪があった部分にトランプの4つの柄と13の文字を入れてやったんだ。
もちろん発狂し続けた男は小便を垂れ流しながら5分と持たずに失神したけど“彼”は気にも留めずに彫り続けた。
『出来た、案外クールじゃないかオマエ』
“彼”は相変わらず興味の無さそうなボソボソとした声でつぶやいたんだ。
木曜日
“彼”は最近巷で騒がれていた超能力者とか言われている男に出会った。
どういう経緯かはわからないけどその男と食事をする事になり僕もその席に呼ばれたんだ。
少し遅れて僕が到着すると男はすでにその超能力とやらを披露していた。
スプーンを曲げる事から始まり、グラスの中の水を溢れさせ、火のついていない煙草を一吸いすると瞬く間に煙がでて先が赤く輝いた。
僕は言った。
「でもコレってやっぱり何かトリックがあるのかい?」
男は言った。
「いや、何だかわからないけど昔からできるんだこういうコトが、でもやっぱり信じないよね」
信じないも何も目の前で起こったその事実はトリックがあるとはとても思えなかったから僕は“彼”にも聞いたんだ。
「キミはどう思う?」
『俺はさ、別にどうでもいいんだ、きっとこの目の前で起きてることは俺たちの物差し程度じゃ測れないほどの凄いことなのかもしれないけど彼がスプーンを曲げたりグラスの水を溢れさせたところでアメリカが戦争をやめるわけじゃないし絶滅した動物が生き返るわけじゃない、飛行機が突っ込んで倒壊したビルが復活するわけでもないし、パーキンソン病は相変わらず治らない、保健所に連れて行かれて毎日殺されるボーダーコリーを救えるわけでもないだろ?だから絵がうまいヤツや足の速いヤツってのと何ら大差ないじゃないか?超能力なんて』
僕は保健所で殺されるのはボーダーコリーばっかりじゃないだろうとか思いながらも
「そうだね」とだけ答えた。
超能力者の男も言った。
「そうなんだ、こんなことがいくら出来たって目の前で轢かれる子猫一匹助けられないんだ、だったらいらないよなこんな力は」
『子猫が轢かれそうなときは飛び込んで助けりゃいいだろ?何でもかんでも助けりゃいいんだ、よくテレビのアナウンサーとかがサバンナなんかで小鹿がチーターかなんかに食い殺される映像をみて言うだろ?“可哀想だけどコレが自然の摂理なんですよね、助けたりしちゃいけないんですよねぇ”とかっつってよ、俺はさ思うんだよ、助けちゃえばいいんだよ何でもかんでも、チーターなんか撃ち殺しちまえばいいじゃねぇか』
珍しく彼の話し方に熱がこもっているのに驚いたんだ。
「でもさ、お腹を空かせたチーターと小鹿どっちを助けるかってのは結構難しい問題だよね」
僕が言うと“彼”は少し考えた後こう言った。
『それは』
『そんなのはそのとき可哀想だと思った方でいいんじゃねぇか?』
「矛盾してる」
「矛盾してない?」
僕と超能力者が同時に言うと“彼”はこう言ったんだ。
『矛盾してちゃいけないなんて決まりがあるのか?』
金曜日
13人の内“彼”が唯一名前を覚えている女が“彼”に言った。
「子供が出来たみたいよ」
『誰に?』
「アタシにに決まってるでしょ?馬鹿なの?」
『俺は馬鹿なのかもしれないなぁ』
「それで?どうするの?」
『出来たもんは産みゃぁいいんじゃねぇか?』
「いいの?」
女は心底驚いたってな顔をして聞いた。
『産むなって言うと思ったのか?』
「当然そう思うでしょ?」
『俺はオマエを愛してるんだぜ?』
「知ってるわよ」
「アタシもアンタを愛してるもの」
“彼”は言ったんだ笑顔でこう言った。
『俺みたいのが二人もいたらオマエも大変だな』
「なんだ、わかってるんじゃないの」
土曜日
僕は“彼”と一緒に街をぶらついてたんだ。
彼と一緒に歩くといつもなんだけど彼は歩道に停まってるチャリンコを蹴飛ばしながら歩くんだ。
半端な蹴飛ばし方じゃないんだ、綺麗に並べて停まってるチャリンコを片っ端から車道に向かって蹴飛ばすんだから。
その日僕は聞いたんだ。
「チャリンコがそんなに嫌いかい?」
『チャリンコに好きも嫌いもないだろう』
「じゃぁなんで綺麗に並べてあるチャリンコをわざわざ蹴っ飛ばして車道に撒き散らかすんだい?」
“彼”は相も変わらず興味無さそうな顔で地面に向かって指を指した。
そこには盲人用の黄色いボコボコしたタイルが綺麗に並べられてたんだ。
「そういうコトか」
『そういうことだ』
「優しいよね意外に」
『知らなかったのか?俺は意外と優しいんだ』
「でもさ、車道を走る車は困るんじゃないかな?」
『知ったことじゃないさ』
僕はこないだ“彼”が言った言葉を思い出したんだ。
“『助けちゃえばいいんだよ何でもかんでも、そのとき可哀想だと思った方でいいんじゃねぇか?』”
「暴君だよねキミって」
そういうと彼は少し笑うんだいつも。
日曜日
12人の女と別れた“彼”は街の小さな教会でその娘と小さな結婚式を挙げたんだ。
参列者は僕だけだった。
もちろん花嫁の投げたブーケも僕が受け取ったんだ。
「おめでとう」
僕が言うと、彼は照れ笑いを浮かべて汚いチョッパーに跨ると花嫁を後ろに乗せてドクターペッパーの空き缶を13本の鎖でつないでガラガラと引きずりながら片手を上げ走り去っていった。
そのままハネムーンに出かけたんだ。
帰り道、僕は歩道に停まってるチャリンコを車道に向かってひたすらに蹴り飛ばしながら帰ったんだ。
途中こんないちゃもんをつけてくるキチガイがいた。
「そんなに車道にボンボン自転車を蹴飛ばしたら車の邪魔じゃないか!迷惑だ!」
僕は言ったんだ
「ここは目の見えねぇヤツの道だ、こんなトコにチャリンコを停めるヤツ等の方がよっぽど迷惑だろ?」
「一日に一人通るか通らないかもわかんねぇめくらの方が大事で一日に何百台も通る車は事故に遭ったって良いってのか?」
「知ったことじゃないさ」
「矛盾してる」
「矛盾してちゃいけないって決まりでもあるのかい?」
めんどくさいからそのキチガイも車道に放り投げてやったよ。
車の急ブレーキの音と“どんっ”って鈍い音が同時に聞こえた気がするけどチャリンコを蹴飛ばすのに忙しかったから大して気にしなかったんだ。
例えばさ、ニガーの若者が白人の警官にリンチされてチャカを突きつけられてたりするとするじゃんか、みんなこう思うと思うんだ。
「どっちに正義があるんだろう」とか「可哀想だけどしかたない」とかね
でもさ、助けちゃえばいいんだよそんなの。
その辺にある金属バットかなんかでさ、その警官の頭に思いっきり振り下ろしてぶっ殺しちゃえばいいんだよ。
カッコイイ暴君ってのはそういうもんさ。
考えることなんてのは大概馬鹿げてるんだよ。
“『助けちゃえばいいんだよ何でもかんでも、そのとき可哀想だと思った方でいいんじゃねぇか?』”